2005-05-30 18:57:00
『ペンギンの憂鬱』- We are all alone. [ 読書 ]
先日ユーロヴィジョンコンテストがキエフで開催されていて、今年の正月にこの本を読んだことを思い出した。
![]() | ペンギンの憂鬱 アンドレイ・クルコフ 沼野 恭子 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
キエフに住む作家の周辺に起こった出来事を綴った物語。主人公は動物園から鬱病のペンギンを貰い受けて同居し、さらに見知らぬ人物の幼い娘も預かり、二人と1匹の同居生活が始まる。主人公に、新聞の死亡欄の予定稿を書く仕事の依頼が舞い込む。やがて主人公は、己の意志と関係なく自分が属さないはずの世界の出来事に巻き込まれていく、というもの。
不条理小説とも紹介されていたけど、読み始めて直ぐに作家の描く世界にすっ、と入り込め、後は一気に読んでしまった。そもそもペンギンを飼うという設定がありえないはずなのだけど、それがとても自然なこととして受け入れられる。今部屋の中に猫がやってきて傍にいるように。後書きにあったが、作者が新聞社の取材を受けた際、飼っているペンギンに会わせてくれとしつこく言われて閉口したそうだ。それ位ペンギンのミーシャが同居している様子が自然なのだ。私自身、読後(ペンギンを飼いたい!)と心底思ったもの。勿論名前はミーシャ。
また死亡記事の予定稿というのは、実際にあることで、例えば海外の新聞のお悔やみ記事を読んでいると、友人が書いた文章の最後に(この文章は○○年に書かれたものに加筆訂正している)と書いてあったりする。この物語では、それらの記事が原因で主人公は様々な出来事に巻き込まれていくのだけど、それらは実際にあってもおかしくないような世界として読めるのである。キエフという舞台設定が、どこか旧社会主義政権下の街なら起こりうるかも、という先入観を抱かせてしまったのかもしれないけど。
この物語の登場者(ペンギンのミーシャを含め)達は、最終的にどうなるかが描かれていない。行く末がはっきりするのは死亡した人達だけ。それが、この物語で描かれた世界のありようであり、不条理なような、無情なようなとも思うのだけど、でもその中で登場者達は淡々と動いている。孤独な者が集まった物語とも評されているが、確かに登場者達は一緒にいながらも実際に深く心の底から交わっているわけではない。主人公とミーシャ、少女、一時同居する女性、それぞれの関係は、ただある世界で一時的に一緒にいるだけのような関係なのだ。作者の世界観なのか、あるいはそんな世界を知っている人物が書いた作品なんだろうなと思う。
お正月に日本語で読んで感動して、帰英後英語で読もうと書店で手にとったのだが、表紙の絵柄があまりにリアルで、日本語版とは全く違う印象を受けた。
![]() | Death & the Penguin (Panther S.) Andrey Kurkov Amazonで詳しく見る by G-Tools |
物語をすんなり受け入れられたのは、日本語版の表紙のイラストのおかげかも。装丁というのは結構大きな影響を与えるものだなぁ。「プロスト・シリーズ」でも、日本はプロストと思われる人物のイラストがかわいいけど、英国版だと暗黒街の世界の物語としか思えない装丁で全く違った印象。
私は、新潮クレストブックスシリーズの装丁好きです。










